約六百年ほど前に発見された新大陸イルガデア。海岸沿いの小さな“瀬”に誕生した港町アルシュラドは植民都市のひとつである。本国と他の植民都市との中継基地として発展したアルシュラドは金鉱脈の発見により、さらに移民が殺到することになった。いわゆるゴールドラッシュである。
産業革命以後、四方を荒れ地と海に囲まれたアルシュラドは横への拡張を諦め、上への成長を選んだ。本国をしのぐ摩天楼が次々と建設され、多階層構造の複雑な都市へその様相を変えていった。
急速な発展は公害と貧富の差を生み出した。蒸気機関から常に排出される煙は都市を覆い、人々は外出時に防塵マスクを着用するほど。そのため、陽があたる綺麗な空気の上層には貴族や富裕層が、煙と蒸気に覆われた下層は貧困者や無法者が暮らすエリアとなったのだ。
富と栄光を手にできる夢の都「ゴールドヘヴン」、いつしか人々はこの街をそう呼ぶようになった。だが、それは同時に、成功と破滅を振り分ける審判の門でもあったのだ。